君が呼ぶのなら こっそりと家を抜け出した。 寝静まった世界の中、響くのは自らが生み出す足音だけ。 あとは夜鳥の、静寂を壊さない鳴き声と、虫の音。風の音。風に揺れてざわめく木々の音。 いま真弘が向かうのは、秘密の場所だ。 不意に足を止めて、なにかに誘われるように真上を見上げた。 夜空一面の、星。 きらきらと瞬く星をしばらく見つめていたけれど、その瞬きが眩しい気がして目を閉じた。 ゆっくりと息を吸い込んで、吐き出す。 息を吐き出しながら、いつの間にか無意識に握りこんでいた手に気づいて、その力を緩めようと意識しながら、けれどなぜか固く結んだ手を解くことに躊躇いを感じる。 どうしてだろうと思いながら、閉じた瞳も開けないことに気づいた。 密やかな呼吸を繰り返しながら、胸の中で荒れ狂う感情を落ち着けようと懸命になった。けれど、感情は静まりを見せず、一層、狂いそうになる。 叫びたかった。 泣きたかった。 「珠紀……っ」 もしもいまキミが呼んでくれるなら、すぐにでも傍に行くのに。 そう思いながら、けれど、たったひとりの恋人と交わした、最後の約束を破ることもできない。 そんなどうしようもない思いに、ただ心ごと壊れられたらいいのにと、泣くこともできないたった一人きりの夜の中、真弘は立ち竦んでいた。 終 |
藤田さんのアルバム曲から。
聴いてて、突発的に書けたので。
蒼黒ネタで。