不意に襲い来る孤独に、耐え切れなくなる。
それを払拭したくて。感情を量りたくて。触れたいと言ったら少しだけ首を傾げて、けれどすぐに笑って、頷いてくれた。
見慣れた笑顔で、
「お伺いなんて立てなくてもいいのに」
そう言ったエドワードに、アルフォンスは「違うよ」と苦笑を滲ませた声を出した。
「アル?」
「触れたいっていうのは、兄さんが思っているスキンシップとは違う意味だよ」
「違う意味? って……ばっかやろっっ」
考え込んだのは一瞬。すぐに言われた意味を理解して、顔を真っ赤に染め上げ、眉根を寄せてアルフォンスを睨むように見上げるエドワードの頬に、アルフォンスは手を伸ばした。
そっと。
壊れ物に触れるような慎重さでエドワードの頬を、皮の指で撫でる。
軽く息をついて、エドワードが瞳を閉じた。
「アル……」
エドワードの唇が、アルの名を呼ぶ。
それが合図になった。
シーツの波に広がる蜂蜜色の髪を指で梳き、空いている手でエドワードの肌を辿る。
くすぐったさに身を捩るのを軽く押さえこみ、色づいて立ち上がった胸の飾りを弾く。
「……は、あっ」
敏感に反応を返すエドワードの体が、アルフォンスの与えた刺激に弓なりにしなった。
「兄さん、感じすぎ」
揶揄を含んで言うと、エドワードがアルフォンスを睨みつけた。
「そう言うこと……言うなって」
「だって、ねぇ、ほら……もうこんなに濡れてる」
透明な雫を流しているエドワードの欲望に指を絡め、濡れた指先をエドワードの眼前に翳して、アルフォンスはくすりと笑った。
「気持ちいい?」
視線を外して横を向いたエドワードの耳元に囁きを流し込むと、エドワードの頬が薄っすらと染まったのが、薄闇の中でも見て取れた。
がらんどうの鎧の瞳で、愛しさを隠すことなくエドワードを見つめ、アルフォンスは濡れた指をエドワードの欲望に絡めた。
緩急をつけて扱くと、甘い声の合間に濡れた音が聞こえる。
指だけの愛撫でエドワードを思うがままに喘がせ、ゆっくりと理性を奪う。
育ちきったエドワード自身を焦らすように、アルフォンスは指を動かした。
達しそうになれば刺激を与えることをやめ、エドワードが落ち着きを取り戻した頃合を計って、触れる。
それを繰り返す。
アルフォンスを呼ぶエドワードの声が、次第に哀切を含んだものに変わるのを、アルフォンスは根気良く待った。
「アル、アルッ……ああ」
「もう、だめ?」
「ん、……うん、も……なぁ、イきたい」
上体を屈めたアルフォンスの鎧の首に、エドワードが腕を回した。
アルフォンスよりも一回りも二回りも小さな体を抱き起こし、エドワードを追い上げる指の動きを早める。
途切れ途切れの、艶めいた声が宵闇の中に響く。
「んっ」
息を詰めるような、鼻にかかった甘い声が聞こえると同時に、解放に歓喜する声が高く上げられた。
白濁がアルフォンスの指を濡らす。
忙しく肩と胸を上下させるエドワードの秘められた場所に、アルフォンスは濡れた指を這わせた。
「あ……アル」
羞恥を隠しきれないエドワードに、
「まだ足りないでしょ? ボクも、まだ、足りないから」
もっと乱れた兄さんが見たいよ、と、欲を隠さない声でアルフォンスは言った。
「ん、……くっ」
「兄さん、息をついて。傷つけちゃうよ」
「あ、……は……あ、アん」
ゆっくりと侵入する指先が、エドワードのイイところを掠ったのか、エドワードの上げる声に艶が混じった。
重点的に弱いところをせめると、エドワードの欲望がふたたび頭を擡げた。
震える肩を、空いた掌で撫でさする。
「アッ」
そんなことさえ刺激になるらしく、エドワードが切なく喘いだ。
ぽたぽたと雫が先端から零れ、淫猥な水音が闇の中で大きくなる。
その度に、エドワードが居た堪れないというように目線を泳がした。
「兄さん」
エドワードが視線を逸らすたびに、アルフォンスはエドワードを呼んだ。
意識を、アルフォンスに向けさせる。
こんな方法で愛情を量る滑稽さを、笑って許容してくれるエドワードの意識を、全部自分という存在だけで埋められたらいいのに、と。そんな風に思いながら。
切なく泣く声が、限界を訴えていた。
僅かな刺激で弾けそうな欲望に触れて、二度目の解放を促す。
アルフォンスの指をしとどに濡らした白濁を、エドワードの赤い舌がぺろりと舐め取った。
ぴちゃり。湿った音が闇の中に溶け込んでゆく。
「まだ、足りないの?」
誘うように蠢く赤い舌から目が離せずにアルフォンスがそう問いかけると、エドワードが少し困ったように笑った。
「そう言うわけじゃないけど……アル……お前がなんか……満たされてなさそうだから、さ」
「……兄さん?」
「お前が満たされるまで、付き合うぞ?」
小首を傾げて、アルフォンスのがらんどうの瞳を覗きこむエドワードに、アルフォンスは「大丈夫だよ」と言った。
「大丈夫、満たされているよ」
「アル?」
強がるなよ、と、そう続けたエドワードの言葉を「強がりじゃないよ」と否定して、アルフォンスはエドワードの頬が鎧の先端で傷つかないよう気をつけながら抱きしめた。
「兄さんという存在だけで、満たされるよ」
「嘘つけ。淋しいくせに。だから、触れたいって言ったんだろ」
「そうだけど……兄さんがちゃんと解ってくれているから、もう、淋しくないよ――今日は、ね」
意味深に言って、アルフォンスはエドワードの赤く色づいた唇を指で辿った。
「それに、どんなに淋しくても――本当はちゃんと判っているんだ。兄さんがいてくれる、その幸福を」
「オレだって、アルがいてくれるから幸せだぞ!」
「うん。ボクたちが一緒にいられる幸福は、ちゃんと知っているから」
それでも、ときどき、無性に孤独になるのは、きっと、温かな体温を思い出せないからだ。
触れても分からないのに、それでも触れたいのは、思い出せない体温を思い出そうと足掻いているからだ。
そして、繰り返す。
触れて、抱きしめて、思い出すのだ。
一緒にいられる、その奇跡のような現実を。
一緒にいられるから、幸福。
傍にいてくれるから、幸福。
あなたが傍らに在るということが、幸福。
「兄さんが、ボクの幸せの形だって、ボクは知っているから」
温かいだろう体を抱きしめて言うと、
「アル、お前をこの世界よりも愛してるよ」
厳かな声音で、エドワードがそう返した。
END
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