White day

「アル、これ……、やる!」
 エドワードが少しだけぶっきらぼうな口調で言いながら、小さな箱を差し出した。
 アルフォンスは差し出された小箱を受け取り、首を傾げ、不器用な包みかたに既製品ではないのだとあたりをつける。
 でも、どうして贈り物をされるのかがわからない。
 誕生日はとっくに過ぎているし。この時期に、親しい人に贈り物をする習慣はなかったはずだ。
 思い当たることがないアルフォンスが、
「兄さん、これは?」
 かしゃんと鎧の音を部屋に響かせつつ問いかけると、エドワードがなぜか胸を反らし気味に言った。
「ホワイトデーだ!」
 エドワードの口から零れた言葉に、アルフォンスは驚いた声を上げる。
「え……、でもボクバレンタインデーに貰ったよ!?」
「いいんだよ。『お返し』なんだから」
「お返しって……ボク、今年はなにもあげていないのに?」
「ああぁ〜、もう! 深く考えるな。普段のお返しなんだから!」
「普段の? あぁ、迷惑料か」
「そうそう……て、アル、お前な」
 あっさりと納得したアルフォンスにつられて頷いたエドワードは、けれど、ずいぶんな言い方に顔を顰めて、弟を睨みつけた。
「迷惑料ってなんだよ、迷惑料って! お兄ちゃんの純粋な気持ちを」
「冗談だよ――あ、でも、半分だけ本気」
「半分って……、本気って……」
 弟の暴言にがっくりと肩を落としつつ、エドワードは日頃の自分の言動だとか行動を省みて、ああ、しまった、ちょっとだけ反論できないかも! とちょっぴり涙目になりつつ、
「とにかくそれは兄ちゃんの気持ちだ」
 と、覇気を失った声で呟いた。
 すっかりしょげているエドワードに、小さな笑い声をあげながら、
「ありがとう、兄さん」
「嬉しいな」と呟き、もらった小箱の包みをアルフォンスは丁寧に開けた。
 小箱の蓋を開けると、少し歪な輪郭をした粘土細工が収められていて。
「…………これ、兄さんが作ったの?」
 不器用で大雑把で、ついでに美的感覚に欠陥があるとしか思えないエドワードにしては、かなり上出来な作りだなぁ、と感心しながら問いかけると、「おう」と照れを含んだ小さな応えが返された。
「これ、猫だよね?」
「…………豚や犬に見えるか?」
「ううん、ちゃんと猫に見える。疑っているんじゃなくて……なんていうか……猫を作ってくれた気持ちが嬉しいなって」
「本物を飼っていいって言ってやれないからな。いまは」
 溜息混じりに呟いたエドワードに、
「判っているんだけどね」
 と、アルフォンスも苦笑混じりの声音で答えた。
「兄さん、ありがとう。ずっと、大事にする」
「おう、大事にしろ」
 エドワードがにかっと子供っぽい笑顔で笑った。
 アルフォンスは手の中の小箱の蓋を閉め、丁寧に包み直すと、それをトランクのなかへとしまった。
「壊さないように気をつけなくちゃ」
 あとで柔らかい布とか、綿とか買ってきて、それで厳重に包みなおして小箱にしまおう。
 そして、エドワードがトランクを乱暴に扱わないように気をつけさせて、でもそれだけではやっぱり不安だから、できるだけ自分がトランクを持つようにしようと決めて、アルフォンスは読書をはじめたエドワードに向かって、もう一度言った。
「兄さん、ありがとう」

 いつか、必ず体をとり戻して。
 そしてエドワードと一緒に住むその場所の寝室に、必ずこの猫の粘土細工を飾ろうと決めて、アルフォンスも借りてきたばかりの本に手を伸ばした。

                             END