まんげきょう 鮮やかな新緑を見つめていると、それだけで表情が緩んだ。 深呼吸をする。 すると、肺の中に若葉の香りと、森のひんやりとした清涼な空気が入り込んで、それだけで気持ちが落ち着いた。 吸い込んだ息を、ゆっくりと吐き出して。 もう一度、深呼吸をした。 木漏れ日の作り出す陰影が、微風に揺れる。 「万華鏡みたい」 地面に揺れる影が織り成す模様。 葉が揺れるたびにその模様が変化するさまは、幼い頃に覗き見た万華鏡を思い出させた。 「……きれい」 地面に描き出された陰影を見つめながら、うさぎはぽつりと呟いた。 とたんに、くすくすと楽しそうに、おかしそうに零される笑い声。 少しむっとしつつ、うさぎは隣を振り仰いだ。 うさぎを見つめる優しくて甘い瞳を、軽く睨むように見つめ返す。 「もう、どうして笑うの、はるかさん」 「んー、おだんごが何にでも感心する姿は可愛いなって」 「かわいいって言ってもらえるのは、嬉しいよ。でも、笑わなくてもいいじゃない」 なんだか素直に喜べないよ。 むうっと頬を膨らませ、唇を尖らせると、はるかの笑みがいっそう深くなる。 なんとなく悔しいような気持ちになって、うさぎはぷいっとそっぽを向いた。 とたんに、また、くすくすと笑う声。 それから、うさぎの髪を撫でて梳く、優しい手の感触。 その感触に、拗ねていたことを忘れてしまいそうになりながら、うさぎはうっとりと目を閉じた。 さわさわと、葉擦れ音。 ただ穏やかに、緩やかに流れる時間。 「おだんご」 静寂を壊さない声音に優しく呼ばれて、うさぎは閉じていた瞼を押し上げた。 優しくて甘い瞳が、うさぎを見つめている。 はるかの瞳を見つめ返しながら、うさぎはにっこりと笑った。 優しくて、穏やかで。 こんなにも愛しい時間を、ずっと、ずっと。はるかと一緒に過ごせることを、その嬉しさを、喜びを、どうすれば伝えきれるだろう。 どんな言葉も、方法も、すべてを伝えてはくれないような気がして、伝えきれない気がして、そのことに少しだけ切なくなりながら、うさぎははるかに手を伸ばした。 木漏れ日の陰影の中で、目を細めて佇んで、うさぎを見つめてくれるはるかの首に両腕を回す。 「……めずらしいな」 軽く驚いた息をついた後、はるかが囁くように言った。 優しく抱きしめ返してくれるはるかに抱きついたまま、うさぎは言う。 「だって、いっつもはるかさんに先を越されちゃうんだもん。たまにはわたしから抱きつくのもいいかなって。――はるかさん、大好き」 いつもはなかなか言えない言葉を、伝えきれない想いの代わりに口にする。 「――ありがとう」 照れたような言葉の後、力強く抱きしめられ。 そして、くるくる表情を変える木漏れ日の万華鏡の中、うさぎに降り注がれたのは、優しいキスの、雨。 了 |