イースターエッグ はるうさ



 ちょっとしたお遊びだ。
 気づかれたら僥倖、気づかれなければ別の方法で。あるいは直接的に。
 ちょっと仕入れた情報をアレンジして。
 多分に、少女趣味だとわかっているのだけれど、まぁたまにはロマンチストを気取るのも悪くないかと思うのだ。
 鈍感な君が、いったいどこまで察してくれるのか。それも賭けだったりするのだけれど。








 ソファの前のガラステーブルの上に、これ見よがしに転がしておいたのはカラフルな卵。
 もうとっくにその時期は過ぎてしまっているのだけれど、デザインのカラフルさと彼女の好きそうな柄に惹かれて、利便性はまったく考えずに購入した。
 チェストの上か、ドレッサーの片隅にでもあれば、案外インテリアの小物として彩りを添えられるんじゃないかと思ったのだ。
 ゆるゆると湯気を上げる紅茶の前。ふわふわと甘いクリームをたっぷり乗せたケーキの前。
 さて、どれだけ彼女の興味を引けるだろうかと、わずかな不安と期待。
「あ! イースターエッグ! かわいい」
 好奇心旺盛なお姫様は、テーブルの上のケーキよりも、紅茶よりも、真っ先に淡いピンクと繊細で真っ白なレースのリボンにコーティングされた卵に興味を示して、声のトーンをキラキラと弾ませた。
 きっかけは上々。さて、じゃあ、このあとはどうなるだろう。
 できれば自分の期待通りに行けば、気恥ずかしさも半減するのだけれども。
「僕のお姫様はこういうの、好きだろうなって思って」
 淡いピンクと白いレースのリボン。シンプルに可愛いもの。
 元気が取り柄の少女とは無縁そうな、可愛らしさと夢見心地全開の趣味は、やっぱりどこか少女めいた印象を残したままの、彼女の母親の影響をたっぷり受けているのだろうなと推察。――確信でもいいけど。
「うん、好き! 可愛い! はるかさん、これ、手に取ってみてもいいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
 キラキラとした笑顔で、まるで宝物に触れるみたいにそっと卵を取り上げる指。
 そうっと掌の上に包み込んで、じっと見つめる大きな瞳が、あれ? と不思議そうに瞬いた瞬間、小さな仕掛けが成功したことを知る。
「これ、本物の卵じゃない」
「そう。おもちゃだよ」
 肩が触れ合うほどの隣に近寄って、立ったまま見上げてくる瞳に微笑んで。
「開けてみて」
 つるりとした表面に、わずかな隙間。それを自ら開けようとは思わないだろうと知っているから促す。
 細い指先が卵の殻をそうっと分離させて。
「え……」
「予約。あと牽制――まだ渡していなかったからね」
「は……はるかさん」
 戸惑った声は無視して。
「どうぞ僕のお姫様。受け取って」
 恭しく取り上げた指輪を恭しく薬指に。もちろん、左手。否は言わせない方向で。
 戸惑いの表情が、徐々に赤く染まっていく過程に、心が満たされていく。
「はるかさん、気障」
「でもこういうシチュエーションは好きだよね? 夢見るお姫様?」
「好き。でも、ちょっと恥ずかしいっていうか、照れくさいっていうか。……でもありがと」
「こちらこそ。受け取ってくれてありがとう。――さて、じゃあ、お茶とケーキをゆっくり堪能しようか」
 いいながら、大好きな少女をソファにエスコート。
 穏やかで甘やかな時間を、ふたりで。
 もちろん、耳聡くて目敏い相棒が乱入してくるまでの、短い時間までだけれど。






                                                         Fin