聖夜2017 星うさ

 いまにも雨か雪が降り出しそうな曇天の下、何時だろうかと時間を確認しようとショルダーバッグの中から取り出した、スマフォのアイコンに一の数字が見えて、うさぎはなんだろうと慌ててアイコンをタップする。
 電話の履歴を呼び出すと、留守番メッセージに数字。
「誰だろ……?」
 通知音は切っているからバイブレーション設定をしているけれど、ウインドウショッピングに意識を向けていて気付かなかった。
 ママかな? と思いながら履歴を見たうさぎは、きょとんと眼を瞬いた。
「……え、星野?」
 ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせながら、うさぎは「なんで?」と小さく呟く。
 ふと視線を上げた先には、大きなスクリーン。その中に踊る文字には、スリーライツ・クリスマスコンサートの告知文字。
 開催日時は本日イブ。開場時間は十六時。開始時間は十八時。
 告知通りなら今頃リハーサルの真っ最中のはずだ。
 もちろん星野のことだから、リハーサルの合間の小休憩にメッセージを入れたのだろうけれど、わざわざメッセージを残すような急用ってなんだろうか。
「やっぱり来い、とかかなぁ?」
 招待客のチケットを用意するからライブに来てよと誘われたけれど、うさぎはそれを断った。
 彼らの大ファンである親友たちが、こぞってスリーライツのライブに行くのだから、正直な話うさぎも一緒に行きたかったけれど、素直に頷けなかったのだ。
 淋しがり屋のうさぎのことを良く知っている星野は、うさぎが断った途端不思議そうな顔をして、それからむぅっとアイドルらしからぬ膨れっ面を晒した。
「なんで!?」
 うさぎなら二つ返事で頷くだろうと思っていたらしい星野が上げた抗議の声に、うさぎは「だって」と俯き加減にその理由を告げた。
 せっかくのイブに、仕事モードのみんなの星野をステージで観たくない。会えないより、ひとり占めできない気持ちでいっぱいになって、それが淋しくて、悲しくなる。
 うさぎの零したその理由に、嬉しそうに頬を緩めた星野は、けれど複雑な心境を隠すことなく、すぐに寂しそうに表情を曇らせて、「そっか」と呟いて、
「イブの日に会えないのは我慢する」
 と、やっぱり寂しさを隠さない声音でそう言って、頷いたのだ。
 うさぎの告げた理由で納得してくれたと思っていた。けれどやっぱり寂しいと思わせてしまっただろうか。……会いたいと、そう思ってくれたのだろうか。
 だったら少し嬉しいと、うさぎは思う。
 我慢をさせておいて、実に、身勝手な感情だけれど。
「やっぱり来てほしいとか言われちゃったら、断れないかなぁ」
 会いたい気持ちはうさぎも一緒だ。これでやっぱり来てほしいというメッセージが残っていたら、我慢がきかずに会いに行ってしまいそうだ。
 そんなことを思いながら留守番センターに問い合わせると、無機質な音声の案内が、一件のメッセージをお預かりしています、と告げた。
 その音声が消えて僅か、優しくて温かみのある声が流暢な発音で
『一日早いけど、メリークリスマス、おだんご』
 そう言った。
「星野……」
 録音された音声だとわかっているのに、思わず名前を呼んでしまったのは、やっぱりその声を聞きたかったからだ。
 うさぎの耳元で星野の声は甘さを滲ませたまま、優しい言葉を紡ぐ。
『ライブが終わったら電話する。眠くても今日はがんばって起きてろよ! ……特別におだんごにだけクリスマスメドレー、耳元で歌ってやるから』
 とびっきり甘い声で歌うからさ、と、続けられた言葉に、うさぎはうん、と頷いた。
「うん、待ってる。ちゃんと起きて待ってるから、……お仕事、がんばって星野」
 ありがとう、大好き。
 心の中でそう呟いて、うさぎはメールアプリを立ち上げた。
 今夜の独占ライブ、楽しみにしているね。
 そう打ち込んで送ったメールに、一秒でも早く気付いてくれますように。
 そう願いながら、うさぎは送信マークに指先を触れさせた。





                                終 

まぁ、たまには星野に甘い思いをさせてもいいかなって思って。