For you 「特別なことなど、いらない。なにもしなくていい」 きっぱりとそう言い切られて、思わず溜息が零れた。 そんな風に言われてしまっては、二の句がつけない。 溜息を零したとたん、少し困ったように眉根を寄せて、戸惑いながらも慌てて、 「あ、いや、……その、気持ちは嬉しいが……」 そう言葉をついで。 けれど、やっぱり、次の言葉はいつもどおり、 「本当に、なにもなくていいし、なにもしなくていい」 そう続けられた。 断っていることに申し訳なさそうな表情を浮かべているイザークを見つめ返しながら、そっと息をつき、キラは頷いた。 これはもう、頷くしかないなと思いながら。 「うん、わかったよ」 本当は、とてもとてもお祝いをしたいのだけれど。 実は全然、まったく、納得などしていないのだけれども。 イザークの誕生日を、ちゃんとお祝いしたいと思っているけれど、祝われる本人が、それはもう頑固に、意固地に、これでもかというほどすべてを固辞するものだから、頷くしかない。 落胆を表情にも声にも態度にも出さないよう、なんとか努力をしながら、キラはもう一度「わかったよ」と言った。 イザークの誕生日に、喜んでもらえるものを贈りたいと思った。 お祝いをして、笑ってもらって。楽しかった、嬉しかったとそう思ってもらえるようにしたかった。 だから欲しいものを聞いたし、ささやかだけれど、パーティーをしようと思うんだけど、と、イザークに打ち明けたら、あっさりと断られた。 プレゼントも、パーティーもいらない。なにもしなくていい。その気持ちをありがたく受け取るから。 そう言われ続け、そして、誕生日当日の今日も、イザークの言葉は変わらなかった。 誕生日当日も断られるとは。さすがにこれはへこむなぁ、とキラが思っていると、 「キラ」 やっぱり申し訳なさそうな声がキラを呼んだ。 そんな申し訳なさそうに声を出すなら、顔をするなら、せめてプレゼントくらいリクエストして欲しかったんだけど、と、うっかり責めを含んだ溜息を零しそうになりながら、 「なに?」 問い返すと、 「ありがとう」 少しぶっきらぼうな早口でお礼を言われた。 呆気に取られて、一瞬、ぼけっとイザークを見つめたキラは、思わず苦笑を浮かべてしまう。 ありがとう、なんて。 結局キラはなにもしていないのに。 それどころか、時間があれば「本当になにも? プレゼントくらい贈らせてよ。でなきゃ、パーティーを」と、しつこくイザークに付きまとった。 いまごろになって、やっと、かなりイザークに迷惑をかけていたのではないかと思い至って、心配になる。 お礼を言ってもらえるようなことは、なにもしていない。それどころか執拗に付きまとってしまった。 しつこいと呆れられていないだろうか。 キラが内心で不安に思っていると、イザークがもう一度、 「ありがとう」 と口にした。 キラは慌てて首を振る。 「お礼なんて! 僕はなにもしていない」 「そんなことはないだろう? 誕生日のことを気にかけてもらった。その気持ちが嬉しかったんだ。だから「ありがとう」と告げるのは、当然のことだ」 「でも……かなりしつこく付きまとちゃったよ」 反省しながら呟くと、イザークが苦笑を零した。 冗談交じりに「確かに、ずいぶん頑張ってくれていたな」と言われて、やっぱりしつこすぎたかと情けなくなってきて、がっくりと肩を落とすと、 「なにも落ち込むことはないだろう」 少し呆れたようにイザークが言った。 キラはイザークの言葉に顔を上げ、小さく息をついた。 「だって、迷惑かけてちゃ意味がないんだ」 「まあ、多少困りはしたが、別に迷惑だと思うほどではなかったぞ」 「本当に?」 「こんなことで嘘をついても仕方がないだろう」 ひょいっと、おどけたようにイザークが肩を竦めた。 容姿が整っている人は、おどけた仕草すら様になるんだなぁと思いながら、キラは、 「迷惑になっていないなら良かった」 と胸を撫で下ろした。 それから思いだしたように言った。 いまごろ言うべき言葉ではなく、本当は会って、最初に言わなくてはいけない言葉だったのだけれど。 「遅くなったけれど、イザーク」 「ん?」 「誕生日、おめでとう」 キラが言うと、イザークが少しだけ驚いたように目を丸くした。 「まさかとはおもうけど、おめでとうの言葉も要らなかったなんて、そんなこと言わないよね?」 「いや……、その言葉はありがたくいただこう。ありがとう、キラ」 くすぐったそうに小さく笑みを浮かべ、そう答えたイザークにキラも笑い返しながら、これはプレゼントのかわりだよと、微笑んでいるイザークの頬にキスを贈った。 END |
遅くなりましたが、イザークさんBDでございます。
果たしてこれは祝っているのか?疑問だ。