七夕星夜


「残念でしたね」
 将がぽつりと呟いた。
「せっかく、星が綺麗に見える場所にいるのに」
 そっと落とされた溜息に、苦笑を浮かべながら克朗は「そうだな」と頷く。
 何年ぶりかの、雨のない七夕の夜。
 夜空一面の星が見られると、夕方のニュースを見た将はとても喜んでいたけれど、現実というものはそう甘くなかった。
 不夜城の都会と違い、人家も光源もぐっと少ない田舎町。
 人工の光が星を隠してしまうことのないこの場所なら、なるほど、確かに将の言うとおり、夜空を埋め尽くすかのような星を見ることができただろう。
 夜空が雲に覆われてさえいなければ。
 諦めを隠しきれない溜息が、克朗の傍らで吐き出された。
「そんなに星が見たかったのか?」
 遠征や、合宿。
 都会から離れる機会が多くなっている今なら、夜空一面の星空など、そう珍しがるようなものでもないだろう。
 そう思いながら克朗が尋ねると、将が少しだけ苛立たしげに息をついた。
「違わないけど、違います」
「? すまない、意味が判らないんだが……」
 将の唇が紡いだ肯定か否定か判らない言葉に、克朗が早々に白旗を掲げると、軽く睨まれた。
「だから、星が見たいのは当たっていますけど、たんに星が見たかったと言うことじゃなくて、克朗さんと一緒に、七夕の星空を見たかったなって……」
 言葉を濁した将の唇が、また溜息を零した。
 克朗は幸せそうに目元を緩めると、攫うように将を抱き寄せる。
 なんて愛しいことを言ってくれるのだろう。
「克朗さん!?」
 焦ったようにもがく体を押さえつけるように、抱きしめる腕に力をこめる。
 往生際悪くもがき続ける将の耳元に、克朗は唇を寄せた。
 ちゅっと耳に口づけて、囁くように言う。
「一緒にいられるのが今年で最後ってわけじゃない。将。来年も、再来年も、このさきもずっと一緒にいられるんだから、七夕の星空を見るチャンスはまだたくさんあるだろう?」
 言い聞かせるように言うと、「そうですけど」と、まだ不満いっぱいの言葉が返された。
「でも、今年の七夕は、今年一度きりじゃないですか」
 見たかったなぁ、と、小さく、小さく呟かれた言葉に、克朗はもう一度苦笑を浮かべて言った。
「星が見られなかったのは、確かに残念だ。でも、今日という日の、この瞬間も、俺には十分思い出になるんだがな、将?」
 言って、将のこめかみに、瞼に、頬に、克朗はキスの雨を降らせた。
 くすぐったそうに首を竦めた将が、「そうですね」と仕方がなさそうに呟いて、
「克朗さんのキスで我慢します」
 と。生意気な軽口を叩いて笑った。

                             END


突発創作。突発更新。無駄に甘い気が(笑)。