〜Birthday kiss 「毎回、毎回、本当に将は初々しいね」 苦笑すら混じった声で感心したように言われて、また、追い詰められた気持ちが強くなった。 恋人の前で硬直して、早、十四分。 「あと三十秒で十五分になるよ」と、将の肩越しに時計を見た竹巳の言葉に、将は顔を歪めた。 なんだか泣き出したい気持ちでいっぱいだ。 普通に、当たり前に、 「お誕生日おめでとう、竹巳くん」 そう言って、望まれたままキスをする。 それだけのことが、どうしてできないんだろう。 竹巳に言われなくたって、触れたいと思う。思うけれども、どうしても恥ずかしさがそれの邪魔をする。 一度、竹巳に聞いてみたことがある。 「キスするとき、恥ずかしくならない?」 将のその問いかけに、竹巳は笑って「恥ずかしいけど、将に触れたい、キスしたいって欲求のほうが上回るから」と、熱っぽい眼差しで言われた。 将にだって竹巳に触れたいという欲求がある。けれども、どうしても竹巳のように、振る舞えない。 そんな自分は、竹巳が言うように初々しいというより、ただ情けないだけだと将は思う。 「将?」 促すというよりは、心配そうな声音で名前を呼ばれて、将は彷徨わせていた視線をぎこちなく落とした。 椅子に座っている心配そうな竹巳の瞳と視線を合わせると、将を安心させるかのように微笑まれる。 それから優しいトーンで告げられる言葉。 「恥ずかしいなら、将がキスできるところでいいよ? 額でも、頬でも。俺は将からもらえるキスなら、それだけで嬉しいから」 甘い言葉でもらえた救済の言葉に、けれど逆に、将は居た堪れない気持ちでいっぱいになる。 竹巳の優しい言葉は、ときに、将を追い詰める。 いや、違う。 竹巳の言葉が将を追い詰めるのではなく、将自身が将を追い詰めているのだ。 竹巳の優しさと甘さに縋ろうとする気持ちと、縋ってばかりじゃいけないと思う、相反する気持ちが。 軽く唇を噛みしめて、将はゆっくりと首を横に振った。 それから、竹巳の肩に置いた手に少しだけ力を込めて、体を屈める。 いますぐにでも逃げ出したい恥ずかしさと戦いながら、小さな声で、 「竹巳くん、誕生日おめでとう」 そう告げて、目を伏せた。 軽く、唇を触れ合わせる。 ほんのわずか数秒触れた唇を離すと、将の腰を緩く拘束していた腕に力が込められた。 そのまま抱き寄せられる。 竹巳の手に抱き寄せられるまま、将は距離を縮めるように体を近づけた。 深くあわせられる唇。 深いキスの合間に、 「ありがとう」 と、少し照れたような声が聞こえて、嬉しくなった。 将からキスをしたとき、竹巳はいつもいつも照れくさそうに「ありがとう」と言ってくれる。 その声のトーンは、いつも以上に甘くて、優しくて。 そんなところは何年経っても、竹巳もかわらない。 竹巳の甘くて優しいトーンでもらえる「ありがとう」が聞けるなら、誕生日やイベント以外にもキスをしてみようかな。それもいいかもしれない。 そんなことを頭の隅で思いながら、将は、求めるように伸ばされた指先に身を委ねた。 END |