舞い降りた、花 花は愛でるべきものだ。綺麗に着飾り、気を引こうとする花たちにヒノエは困ることはなかった。六波羅で見つけた一輪の花に出会うまでは。 「私、ヒノエくんに会いに来たんだよ」 烏を使って、密かに調べていた龍神の神子。源氏と平家の争いに、波紋を投げ掛ける存在。近いうちに源氏と平家のどちらかにつくべきかを選択する時が来る。そのため、いずれは自分の目で見定めようと思っていた。だが、彼の意とするべき事などないかのように目的の花はフワリとヒノエの前に舞い降りた。 それは今まで見た事のない鮮やかな花。どこにもなかった花だった。守られる事をよしとしない、大切な人を守りたいと。美しいだけではない、強く誇り高い花。 (参ったな……) 理屈ではない何かが心に宿る。どこにもない、花。 「どうしたの、ヒノエくん?」 「……」 真っ直ぐに覗き混むそねまなざしに、不意に囚われそうになる。 「何でもないよ。姫君があんまりに可愛いから」 「もう、ヒノエくんってば!」 かと思えば、ヒノエにとっては他愛ない口説き文句に一つ一つ反応しては真っ赤になる。反応から分かる、男女間の睦みごとの経験のなさ。以前、言い寄る男など多かったのではないかと聞いたことがあるが、望美は笑って首を振った。傍から見て判りやすいほど判りやすい譲の好意にもきづいていない。そういうことに、鈍いらしい。元の世界では将臣や譲が常に側にいたのが、他の男から見れば、十分な牽制だったのだろう。 (ま、オレには都合はいいけど?) この花を手に入れると思ったのだ。蕾から鮮やかな満開の花に育て上げるのも悪くない。それだけの価値のある花だ。 「オレは嘘は言わないぜ? いつだって、姫君にむけるのは真実の言葉のみだよ」 駆け引きはするし、本当のことを隠しはするけれど。彼女の耳には真実しか伝えない。そうでなければ、彼女には届かない。 「ヒノエくんは、そういう言葉を言うのに慣れてるかもしれないけど……」 「悲しいね。おまえにはいくら言っても言い足りないし、どんな言葉がお前を喜ばせるのか、いつだって迷ってるっていうのに。おまえといれはいるほど、オレの中では愛しさが増すっていうのに」 「〜」 最後の言葉は望美の耳元へ吐息と共に送り込む。以前、真珠の耳飾りを贈った時に耳元で甘く囁いた時、その身体が微かに反応した。以来、事あるごとにこうして望美の耳元に囁いては彼女の反応に満足する。 「どうしたの、姫君」 「や、耳に息、かかって……」 「どうしたの?」 自分にもたらされる甘い感覚に望美は慣れることはない。けれど、ヒノエから逃げることはない。いつも、腕の中で甘やかな吐息を零すだけ。それが意味するところを考えて、ヒノエは満足げに微笑する。 「可愛いね、姫君は……」 「ん、ふ……」 そっと耳朶を甘噛みすれば、吐息には切なさと甘さが混じり。その跡を舌でなぞりあげれば、一層甘い声をあげて、身体を震わせる。 「あ、っ……」 与えられる感覚に力を失った身体が、ヒノエの腕の中に捕らわれてしまう。 「まだ慣れない?」 「……!」 揶揄かうようなヒノエの言葉に望美は顔を紅潮させて、キッとヒノエを強いまなざしで睨みつける。先程まで与えられる感覚に流されていたとは思えないほどに。だが、快楽で潤んだ瞳で、そのような瞳で見られれば、男を煽る効果しかない。 「早く慣れないと、身が持たないよ? 姫君はいつだってオレを誘惑してるんだから」 「してないよ、そんな……」 「やれやれ、自覚がないのかい。困った姫君だ……」 そう言って、ヒノエは肩を竦めるが、望美にとっては訳が分からない。ヒノエの言動にいつも振り回されているのは望美の方だ。ヒノエのことは嫌いじゃない。むしろ、好意を抱いて入るけれど。 「ヒノエくん、ずるいよ……」 「オレが? ま、そう見えてもいいよ? それで姫君が手に入るんなら、さ」 熱を帯びた声。それだけで、ゾクリとする。 「おまえを花咲かせるの、オレしかいない…ってね」 「〜」 甘く絡めとられてゆく。逃れられない感覚に身を竦める望美にヒノエは甘く囁く。 「まだ、オレがオレ自身の納得いく男じゃないから、おまえには手を出さないけど。だからといって、花の世話を怠るほどは愚かじゃないしね」 「出してるじゃない……」 「こんなのはまだ序の口だよ? それとも、姫君が望むなら、今すぐにでもしようか?」 「えっ?!」 途端に慌てたような声を上げる望美にヒノエはクスリと笑う。 「だから、さ。早く慣れてよ。オレだけに触れられるお前でいてもらうためにね」 「知らないっ!」 プイと顔を背けようとする望美を制して、ヒノエは望美の顔を自分に向けさせる。 「知らないんじゃ、知ってもらうまでだよ」 そう告げて、ヒノエは望美の髪を一房掬うと、口付けを落とした。 |
RYOさまからモニタ復活記念に頂いた、ヒノエ×望美話v
セクハラするヒノエ(笑)思わず裏を期待したのは、わたしです……。BYまどか