1 なにもない広い空間に、ぽつんと立っていた。 淡く発光している不思議な色の霧の中、別段、不安をかきたてられることもなく立っているここはどこだろう。 そう思いながらぐるりと回りを見回して、息を飲んだ。 淡く輝く霧の中に透かし見える、金色。 とたんに胸の奥から湧き上がった孤独感。不安。 なぜそんなものが、突然、思考の全てを支配したのかは解らなかった。けれど、湧き上がった感情に急きたてられるように、無意識に体が動いた。 「――!」 どうして、ここにいるのだろう。 なぜ、彼までここにいるのだろう。 のろのろと動いていた体は、その思考に辿り着いたとたん、弾かれたように走り出して、名を叫び呼んで、手を伸ばす。 けれど、距離が縮まらないうちに、見えない壁に阻まれる。 どんっ。 幻のように透かし見える人と自分を阻む、見えない壁を力の限り殴りつけて、衝撃が来ないことに気づく。 力いっぱい殴りつけたのに。 叩きつけた手は、痛みを訴えなかった。 かくん、と、全身の力が抜けた。 縋るように、見えない壁に手をついて遥か向こうを凝視する。 泣きたい気分で、ああ、これは夢なのかと思う。 誰を、望んでいるのか思い知らされる。 けして届かない人。 この手につかめない人。 「―――」 声にならない声で、名を呼んだ。 その瞬間だった。 突然、霧が晴れた。 クリアになった視界に、佇む人がはっきりと見えた。 反響する、音。耳朶に残って。 そして―――――――― 声もなく、ただ、呆然と佇んでいた。 佇むことしかできなかった。 |